Ⅱ 考える営業

 

1.営業の使命

2.考える営業

3.4つの営業

4.人脈づくり

5.会社の力

6.非価格の課題解決

7.価格・コストの課題解決

8.需要創造と効率(コスト・ロス削減)の両立

9.  PDC


1.営業の使命

 

ここからは、この論文の主題である営業のマーケティングの「営業」の話をすすめる。

 

まず、営業の使命を確認しておく。一言でいうと「営業とは会社が準備した価値を全コストの負担者であるお客さまに届ける」である。つまり、「バリューチェーンの完結」「マーケティングの完結」である。だから、そんな重大な使命を負う営業は、市場の関与者をよく理解し、説得しなくてはならない。


2.考える営業

(1)未来営業の条件

 

2015年、二俣事務所が製造業・卸売業・小売業・サービス業のキーマン69人に2020年以降の未来営業像をヒヤリング調査した。69人が予想している未来営業像をまとめると以下の8つになる。

以下の(1)(7)のことは、これまでの「商品のマーケティング」下に存在してきた商品起点の政策を忠実に実行する「考えない営業」では実現できない。それぞれの現場でひとりひとりが考えて考えて実績をつくりあげる(8)「考える営業」でなくては実現できない。

(2)考える営業への変化を促す環境変化

 

また、お客さまとお客さま接点の変化から、サプライヤー(中間流通業・製造業)の課題を整理してみても、お客さま接点にいる営業は、従来の商品起点の政策をこなすだけの「考えない営業」では対応が困難といえる。たとえば以下のとおり。

(3)考える営業の3要素

 

「考える営業」は、ひとつの目的と、ふたつの方法で成り立つ。

 

第一に、目的は得意先と自社のwinwinであること、つまり双方の課題解決であり売上・利益目標の達成である。第二に、方法の第一として、人脈づくり、会社の力、非価格の課題解決、価格・コストの課題解決の4つの営業を組み合わせること。第三に、方法の第二として、自分で考えて考え抜いた計画の実行・検証を繰り返すこと(=PDC)。以上である。

3.4つの営業

 

第一の方法である「4つの営業」から説明していく。4つの営業とは以下の人脈づくり、会社の力、非価格の課題解決、価格・コストの課題解決、のことである。二俣事務所が製造業4社の営業行動記録からその行動を分類整理したものである。

 

原則としてつねに「4つの営業」に取り組まなくてはならないが、そのカテゴリにおける自社のポジション(シエア)によって、4つの営業の組み合わせ方、重点の置き方が違ってくる。これも各社の営業行動とシェア実績を照合した結果の仮説である。

 

これまでの経験からとくに確信をもっていえるのは、シェア11%ラインの上と下で大きな違いがあること。

 

シェア11%以上は、目標を、経営パートナー、実績(シェア)の維持・拡大、におき、非価格の課題解決を前面に出した4つの営業すべてを抜け漏れなく展開することが大事。どれか抜けるとシェア低下していく可能性がある。

 

シェア11%未満は、目標を、話を聞く相手と認められる実績(シェア)づくり、におき、非価格の課題解決の効果は低いので、接触量、会社の力、価格・コストの課題解決の営業が焦点になる。

4.人脈づくり

(1)組織図深度バロメーター

 

「4つの営業」の中身を紹介していく。

 

「人脈づくり」から。

人脈づくりとは、関与するキーマンを把握し、接触し、接触量を上げ、理解しあい、信頼関係をつくるということである。大きく分けると、対象組織と、市場の関与者の2つの領域がある。

 

まずは対象組織の人脈づくり。

 

第一に、組織・キーマン・意思決定構造を把握する。

 

図の組織図深度バローターの作成が大事になる。

部署名のはいった組織図を描き、各部署のキーマン名を記入し、自分たちとの関係性を、❶いつでも聞ける、❷ときどき話をして課題を聞けている、❸話したことがある、❹会ったことはある、❺面識なし、の5段階に色分けして塗る。

 

一目で対象組織との関係性がわかる図であり、つねにこの組織図深度バロメーターをみながら、ターゲットを決めて、関係性を徐々に高めていくことになる。

 

中間流通業は、お客さま接点から組織図を入手しやすい。しかし、直接取引していない製造業はなかなか入手できない。まずはわかる範囲から整理して、本部や店のよく知る人に聞いたり、施策を通じた他部門との接触や得意先資料の閲覧などの情報収集を重ね、徐々に広げていけばよい。それがそのままビジネスチャンスを広げることになるはずだ。

 

本部と店をもちチェーンオペレーションをしているお客さま接点の組織は、調達して計画を立てる調達・計画部門と、それを販売する販売部門が柱となっている。前者は、商品部・販売促進部といった部門であり、後者は店舗運営部とかスーパーバイザーとか店といった部門がそれに該当する。

 

中間流通業や製造業との交渉窓口は商品部だが、そこのバイヤーと呼ばれる人たちの使命は安く仕入れて有効な販売計画を立てて十分な売上と利益を創出することであるため、そことの交渉はおうおうにして価格を焦点とした話し合いになる。また、組織が大きく役割分担が細分化されているため、大きな交渉、たとえば他部門と協働する大きなコラボ取組は決められないし、バイヤーが決めたことは、その大きな組織の中を経る間に、そぎ落とされ、関心の店頭での実現度は低くなってしまう。だから、窓口以外の縦と横のキーマンたちと話せる間柄になっておく必要がある。バイヤーの上司、商品部長、トップ層、販促の計画を立てている販促部、そしてもうひとつの柱部門である販売部門の本部にいるひとたち、店のひとたち、本部の指示を店に伝えるスーパーバイザーと呼ばれるひとたち、などである。

(2)意思決定フローの把握

 

そして、その組織の意思決定構造を把握する。品揃えや販促について、いつ、誰が、どこで、何をどのように決め、どこへどのように伝えているか、を把握するということである。

 

以下のような意思決定フロー図の作成になる。対象組織の各部門のキーマンと話を重ねていかないと、なかなか描くことはできない。意思決定フローがわかれば、いつ、とごに向かって、どんなアクションをとっていけばいいかが、はっきりする。定番登録と販促の2種の意志決定フロー理解が必要だろう。

 

下図は販促の意思決定フローの一例だが、これで説明すると、3か月前のマスタープランのタイミングが製造業や中間流通業にたいし販売計画が提示されるときであるが、そこにはすでに決定されている製造業の施策もある。それは6カ月前にマーケティング部が原案を決める頃から提案され合意された施策である。つまり、お客さま接点とサプライヤーの交渉・合意は、相手を調達部門窓口だけに限定しなければ、販売計画提示のずっと以前から可能なのである。また、マスタープランが共有され施策決定されたあと、計画が地区や店に降りる段階でも、交渉の余地は残されているのである。担当者が調達部門の窓口とだけ話していたら、この意思決定構造はわからない。組織での提案や交渉が動いていないと把握できない。

(3)接触量を上げる

 

第二に、把握したキーマンたちとの接触量を上げ、信頼関係づくりをする。

どのようにして接触量を上げていくか。代表的な方法を挙げてみる。以下のとおり。

 

❶前提条件として、相手の業務内容、必要としていること、行動パターンを知る

 

どんな相手にも役割があり、それにともなう業務があり、必要としていることがあり、行動パターンがある。それを相手や周りの人に聞いて知る。そうすれば、いつ接触すればいいか、どのような話を持ち込めばいいか、がわかる。たとえば、以下にバイヤーの業務を示したが、多くのお客さま接点のバイヤーが、どの業務も、自分一人だけではできずにいる。

 

❷相手が必ずいる時間にたずねる

  

❸相手がこなしきれていない業務を手伝う。たとえば以下のとおり。

 

1)相手の販売データや相手と競合の売場、市場平均の販売データ等を調べて、定期的、たとえば月1回頻度で報告する。

2)自社がもっているお客さま調査データを定期的に報告する

3)競合および業界全体のトレンドをまとめて定期的に報告する

4)相手が担当するカテゴリ全体の品揃えと棚割を提案する

5)相手が担当するカテゴリ全体の販売計画を提案する

6)オリジナル商品の開発に参画する

7)定期的に店の店長や売場主任の声を聞いて報告する

8)改装、新店の売場づくりに同行し手伝う

9)店の品出し、売場づくりを手伝う(自社商品に限らず)

10)店の在庫削減のアイデアを出す(自社商品に限らず)

 

❹相手の業務のはざまの気を緩める時にねぎらう、軽い連絡事項を伝える。たとえば以下のとおり。

 

1)休憩時間に、あいさつしたり、軽い連絡事項を伝えたりする

2)一日の終了時間近くに、あいさつしたり、軽い連絡事項を伝えたりする。

3)朝・晩の出勤・帰宅時、駐車場、駅などで、あいさつしたり、連絡事項を伝える

4)SNSで気軽に交信できるようにしておく

 

❺相手の関心ごとをつかみそれに参加する。たとえば以下のとおり。

 

1)関心をもっている店を一緒に見に行く

2)趣味を把握し、一緒に参加する。スポーツ観戦、ゴルフ、野球、釣り、囲碁・将棋などなど

3)同じ出身地・出身校の仲間で語らう場をつくる

 

❻組織的対応をして、自社の経営資源を実感してもらう。マーケティングのアドバイスをもらう。たとえば以下のとおり。

 

1)定期的に工場見学に招待する

2)ときおり本社に招待して上層部にも参加してもらったプレゼンをする

3)商品の新発売やリニューアルのときは必ず試用・試食してもらい評価してもらう

4)ときおり本社の商品開発が営業の交渉の場に参加し、商品の評価や要望を聞く

5)定期的に上層部が交渉の場に参加して、政策を案内したり、評価・要望を聞く

 

❼コミュニケーションを途切らせない

 

1)交渉ごとに、その日中に、お礼や、きょう確認したこと(備忘録)をメールで伝える

2)接触したらかならず宿題をもらい、つぎの回答を約束する

3)すべてにおいてクイック・レスポンスに徹する

 

などなどである。

 

これまで営業のみなさんと仕事をしてきて、正確に測定したわけではないが、

調達部門窓口との実績向上につながる接触回数の目安は、月に4回と判断している。

 

月に1回の接触では、その案件は断られたらおわりということを意味している。

月に2回の接触にすると、1度断られても、リカバリーができる。

月に3回の接触にすると、2回よりは成約数が多くなる可能性をもつ。

月に4回の接触にすると、たとえまず断られたとしても、月に複数の案件が成約する可能性が高い。

 

よく実績が上がらない営業のその理由を探索する。

得意先の方針・態度、中間流通業の態度、競合の動向、自社の実績(商品の登録数、店舗カバレッジ、販促の実施数、最販タイミング実施率、店舗カバレッジ、キーマン接触の状況、人脈の豊富さ、自社の他者のかかわり方、価格施策の内容、非価格施策の内容など)などたくさんの視点から確認していくが、最大の要因は、調達部門窓口との接触量が月12回で不足していること、である場合が少なからずある。

接触量は、営業のもっとも基本の指標ということができる。

(4)Z話法

 

すべての接触・交渉は「Z話法」と認識しておいたほうがいい。

 

得意先はまず「No」と言う、だから、説得材料を準備して臨む、ということだ。説得材料は説得力のある事実のことで得意先のお客さまニーズを示す事実、ほかでの販売実績、魅力的な展開事例・成功事例などだ。

 

競争相手が少なく、高いシェアを有している企業だったり、すごく豊富な原理・原則、ビジネスフレームと、経験をもつ人間であれば、説得材料をもたなくても説得は可能かもしれないが、多くの場合は説得材料をもたないと失敗の確率が高くなる。

(5)課題ヒエラルキーの把握

 

組織の形状をあらわすものとしてヒエラルキーという言葉がよく使われる。ピラミッド状もしくは樹状のかたちになっている階層組織を意味する言葉だ。課題認識もその組織の役割分担に沿ってそれぞれ違う内容で存在する。これを課題ヒエラルキーと呼ぶ。これも水口健次の言葉を借りている。

 

調達部門窓口の使命の最大のものは安く調達して収益を確保することだ。だから、調達部門窓口との交渉は価格交渉になりやすい。だから調達部門窓口以外のその縦と横のキーマンたちの課題を知ることで、ビジネスチャンスが非価格の方向で拡大する。

 

たとえば、調達部門長は単品・カテゴリでなく全体の商品構成を、販促部長はお客さまのファン化の策を、店長は商圏のお客さまの集客を、部門担当は在庫抑制、作業効率を、優先して考えている。

 

中間流通業や製造業の営業は、お客さま接点のなかでもっとも価格のことを気にしている窓口と交渉していることになる。

(6)市場の関与者人脈

 

つぎに、対象組織に影響を与える「市場の関与者」の人脈づくり。

 

第一に、商圏の関与者構造を把握する。前出の対象組織に関与する、エンドユーザー(消費者・使用者)調達先(中間流通など)影響者(行政・メディア・団体・事業者など)、そして競合者について、組織名、キーマンを把握する。

 

第二に、関与するエンドユーザー、調達先、影響者、競合者の組織のキーマンのプロフィール・考え方を把握する。

市場の関与者たちは、対象組織へのアプローチにおいて、効果的な援軍になってくれる。

できれば、以下のような商圏の関与者構造シートを作って整理するとよい。

5.会社の力

(1)入れる、動かす、広げる

 

2番目の「会社の力」に移る。商品の力とダイヤモンド営業の力の2つの領域がある。まずは商品の力から。

 

商品起点の商品のマーケティングの営業は、まさに「会社の力」の発揮だった。

よく「入れる、動かす、広げる」と呼んだ。

「入れる」とは定番登録、全店配荷、優位置露出であり、そのための条件、広告量提示、棚割提案である。

「動かす」とはトライ・リピートを増やし、売上を上げることで、そのためのチラシ特売エントリー、プレミアムキャンペーンである。

「広げる」とは店内お客さま接点を増やすことで、そのためのクロスMD、多箇所陳列である。

 

具体的には下表のとおり。

(2)お客さまの認知→経験→採用→愛用をつくる

 

しかし、自社の都合だけの「入れる、動かす、広げる」だと、競争環境であるかぎり、確実に価格のたたかいが中心になっていく。本来、「全コストの負担者であるお客さまの好意と購買」をめざしているサプライヤーは、自己都合だけでなく、それ以上にお客さまの購買態度を大事にすべきだ。お客さまの購買態度とは、認知(知っている)→経験(買ったことある)→採用(ときどき買っている)→愛用(いつも買っている)である。この購買態度を上がってもらうために会社の力は注がれるべきである。

 

右表で説明する。

 

❶まず認知(A助成想起率)と経験(T経験率)を上げる。そのためには、ブランドプロモーション、チラシ広告エントリー、試用デモ販、サンプリング、価値メツセージPOPなどが重要になる。

 

❷つぎに採用(U採用率)を上げる。そのためには工場招待、商品を使用する講習会招待、カード会員ヘビーユーザーへの特典販促、棚割主幹どり、などが重要になる。

 

❸つぎに愛用(L愛用率)を上げる。そのためには、カード会員ヘビーユーザーへの特典販促、商品を使用する講習会招待、などがとくに重要になる。

(3)価値メッセージが減る時代だからこそ価値メッセージにこだわる

 

営業の使命はブランドの価値をお客さまに届けることである前出。その使命から考えると、お客さまに商品(ブランド)の価値をきちんと伝えることこそ、営業のもっとも基本的な仕事ともいえる。

 

いま、リアルのお客さま接点の最大の問題は人手不足である。人手不足は人手のかかる作業の抑制を促す。店での情報発信にともなう作業は減らさざる負えなくなる。つまり、お客さまに商品(ブランド)を手にとってもらうためのPOP掲出は、店をまわって作業を手伝う部隊を十分に持たない限り、難しくなる。利益率が低下し続けているサブライヤー(製造業・中間流通業)も店にかける人は減らし続けるだろう。そんな環境だからこそ、商品の価値の伝達にこだわり実現することが実績向上の鍵になるのだ。以下に価値メッセージ発信について留意すべきポイントを挙げておく。

 

3倍POP

 

わたしたちの調査によると、スーパーの売場の滞在時間は女性16.1分、男性11.4分である。ドラツグストアでも、コンビニでも、女性のほうが長く滞在しているはずだ。そして、購買決定者も女性である。ハー・ストーリィの調査によると、食品・日用品はもとより、夫の下着、住宅リフォームまで女性がリードして決めている。男性がかろうじて主導権を残しているのはクルマだけだ。

 

米国メリーランド大学の研究結果によると、男性が1日に発する単語数は平均7,000語で女性は平均20,000語。女性は男性のおよそ3倍もの単語数を発し、1日に6000語以下しか話せないと、脳がストレスを感じやすくなる-。ということだ。また、色の認識も、男性は7色に区分するのに対し女性は29色に区分するという。さらに価値判断も、男性はひとつの価値で比較して決める人が多いが、女性は複数の価値で比較して決めるという。つまり、女性は、男性の約3倍の情報空間に生きているということだ。

 

そもそも、日本では、ほとんどのサプライヤーが男性中心の意思決定である。お客さま=女性の感覚と大きなズレがありながらビジネスが進んでいると判断してもよい。

 

だから、情報発信量は、現在の3倍が、あるべき姿といえる。

 

 

❷機能的便益、情緒的便益

 

デビット・A・アーカーは、お客さまの商品選択は、品質判断である機能的便益、イメージ判断である情緒的便益、自己表現的便益の3つの価値と、それと照らしての相対価格で決まる、と言っている。

 

お客さま接点において、クルマ、家電、ファッション、ビューティケアなどはそのことを踏まえた価値メツセージが展開されているが、食品、日用雑貨は機能的便益だけで情緒的便益はあまり伝えられていない。

 

 

❸商品価値、客観的選択サポート情報、自分からの実感の推奨メッセージ

 

二俣事務所の調査ではお客さま接点の価値メッセージを大きく分類すると商品価値(機能、スペック、用途・使い方)、客観的な選択サポート情報(他商品との比較やランキング)、店・自分からの実感の推奨メッセージの3つになる。

 

この3つのメツセージを前出の機能的便益、情緒的便益の2つの視点で考えるのが妥当と思われる。

 


 

❹感動、簡潔、ビジュアル、目線・動線

 

さらに、表現方法にもこだわりが要る。二俣事務所がスーパーの価値メツセージの表現のしかたを調査したところ、(1)感動・おどろき (2)簡潔、ひらがなとカタカナ (3)ビジュアル (4)目をひくサイズ、目線・動線 の4つがポイントであるようだ。

 

二俣事務所がお世話になった製造業のある支社では「状態管理」という言葉で価値メツセージを次のように扱った。

第一に、本社発の価値メッセージをその地区に適した価値メッセージに翻訳し直す(方言も使う)

第二に、お客さまが集まる接点のあらゆるところに価値メッセージを掲出する

第三に、価値メッセージはお客さまの動線上の距離が離れたところから目にはいるように掲出する

(4)バタフライ営業とダイヤモンド営業

 

ここからは、もうひとつの会社の力、「ダイヤモンド営業の力」について紹介していく。

 

サプライヤーのお客さま接点との交渉は、以前は、本部担当と調達窓口の1点で行われていた。1点でつながり他の関与者は後に控えて交渉にかかわらないため蝶の形状にたとえて「バタフライ営業」と呼ばれた。ところが、前記したように調達窓口は安く仕入れることが使命ゆえに、そことの交渉は価格の商談になりがちで、サプライヤーにとってそれは大きな問題となっていた。そこで、調達窓口以外の関与者の課題にも応えて大きくなるお客さま接点の経営パートナーという強いつながりをつくるため、お互いの各階層・機能の関与者が組織対組織のかたちで交渉するかたちが生まれた。多数の関与者がつながるためバタフライを逆転した形状の「ダイヤモンド営業」と呼ばれた。現在、サプライヤーと重点お客さま接点との交渉はこの「ダイヤモンド営業」が主流となっている。

 

ダイヤモンド営業はサプライヤーにとって次の利点がある。第一に、お客さま研究、商品開発、カテゴリ全体の収益向上、物流改善などの多様な非価格の課題取組が可能になり、お客さま接点にとって欠かせないパートナーになれる。第二に、担当者が異動しても組織対組織の交渉が維持されていれば販売実績が崩れることはない。第三に、この形でパートナー関係をつくってしまえば競合の実績拡大を阻みやすくなる。

(5)階層連結型と機能連結型

 

ダイヤモンド営業は大きく分けると階層連結型と機能連結型の2つのタイプになる。

 

階層連結型とは縦の各階層が参加するかたちである。サプライヤー側は、トップ、地区長・部門長、担当マネジャ、本部担当、店舗担当、営業スタッフなどとなり、お客さま接点側はそれと対応するかたちで、トップ、部門長、担当マネジャ、調達窓口(バイヤー)、販売担当、販促スタッフなどとなる。取組テーマはカテゴリの定番と販促に関するものが多い。日本の場合がこのタイプが多い。私見だが、この原型はハウス食品が1980年代に導入したE型編隊営業ではないかと思われる。

 

機能連結型とは縦の階層に加え横の他の機能が参加するかたちである。サプライヤー側は、前出の縦の階層以外に、リサーチ、商品、ロジスティクスのスタッフなどの横の機能の担当者が消費者研究、商品開発、ロジスティクス改善などの取組テーマに応じて参加する。お客さま接点側はそれと対応するかたちで、前出の縦の階層以外に、横の他の機能の商品開発やロジスティクスのスタッフが取組テーマに応じて参加する。ダイヤモンド営業は米国のウォルマートとP&Gの間の製販同盟(コ・ワーキング)が原型だが米国ではこのタイプがもっともポピュラーな形である。日本でも近年はこのタイプが増えている。

(6)エリア・ダイヤモンド営業

 

また、ダイヤモンド営業は、階層連結型でも機能連結型でも、その規模によって3つに分けられる。「エリア・ダイヤモンド営業」「事業・ダイヤモンド営業」「グループ・ダイヤモンド営業」である。

 

エリア・ダイヤモンド営業の階層連結型は、サプライヤー側は地区長・部門長、担当マネジャ、本部担当、営業スタッフ、お客さま接点側はトップ・部門長、担当マネジャ、調達窓口(バイヤー)、販促スタツフが参加する。取組テーマはカテゴリの定番と販促、人の育成に関するものが多い。ダイヤモンド営業のなかで最も小さくてポピュラーな形である。

 

もっとも一般的な組み合わせなので、サプライヤーの各階層の役割まで紹介しておくと、地区長・部門長はお客さま接点のトップ・部門長への政策の紹介や課題認識の聞き取り、担当マネジャは担当マネジャへのリサーチデータの紹介や課題認識の聞き取り、本部担当は調達窓口への施策提案、営業スタッフは本社リサーチデータの紹介、などになる。

 

エリア・ダイヤモンド営業の機能連結型は、サプライヤー側は前出の縦の階層のほかに横の機能の他チャネル担当者が取組テーマに応じて参加する。他チャネル担当者が参加する取組テーマは、たとえば、卸担当と協働での取組、業務用担当による業務用商品開発、法人担当による法人からの送客クーポン取組、などがある。お客さま接点側は前出の縦の階層のほかに横の機能の販売担当、他チャネル担当者が取組テーマに応じて参加する。

(7)事業・ダイヤモンド営業

 

事業・ダイヤモンド営業の階層連結型は、サプライヤー側はトップ、地区長・部門長、担当マネジャ、本部担当、本社と地区の営業スタッフ、お客さま接点側はトップ、部門長、担当マネジャ、調達窓口(バイヤー)、販促スタツフが参加する。「エリア」と比べるとトップと本社営業スタッフが参加する分スケールアップしている。取組テーマは「エリア」と同様にカテゴリの定番と販促、人の育成に関するものが中心になる。サプライヤーは「エリア」とくらべ本社のトップ層と営業スタッフが加わるわけだが、トップはお客さま接点のトップにたいしての会社の方針・政策の紹介と課題認識の引き出しが役割となり、本社営業スタッフは本社の営業政策やリサーチデータの紹介などが役割となる。

 

事業・ダイヤモンド営業の機能連結型は、サプライヤー側は前出の縦の階層のほかに横の機能の本社のリサーチスタッフ、商品スタッフ、ロジスティクススタッフが消費者研究、商品開発、ロジスティクス改善などの取組テーマに応じて参加する。お客さま接点側は前出の縦の階層のほかに横の機能の他チャネル担当者などが取組テーマに応じて参加する。

(8)グループ・ダイヤモンド営業

 

グループ・ダイヤモンド営業は、グループだと大きな規模になるサプライヤーが採れるフォーメーションである。エリア・ダイヤモンド営業もしくは事業・ダイヤモンド営業のグループ複数社での実行なので、基本的には前出の説明を、グループ複数社も参加したかたちで捉えてもらえればいい。

 

このかたちだと目的と取組がスケールアップする。目的は、1社だけだと影響力が限られていても、お客さま接点のトップ層以下にたいし、グループとして揃って大きな販売力を見せることで、単体の身の丈とは違う大きな影響力を獲得することだ。取組も大きくなる。トップも参加した交渉の定期開催が実現し、単体ではなかなか話せない調達部門以外のキーマンたちと話すことができる、グループ企画という大きなブランドプロモーションを恒例化することができる。グループ契約(リベート)というお客さま接点の利益をある程度保証するほどの大きな価格の課題解決交渉も可能となる。

6.非価格の課題解決

(1)課題の発見・合意

 

つぎは「非価格の課題解決」。カテゴリの課題解決取組と経営の課題解決取組の2つの領域があるが、2つともまずはお客さま接点の課題の発見・合意からはじまる。以下のとおり。

 

❶意思決定構造の把握とキーマン課題ヒヤリング

 

まずは、前項の「人脈づくり」で紹介した「組織図深度バロメーター」づくりと「意思決定フロー」があり、そのうえでの「キーマン課題ヒヤリング」が必須となる。

 

これは、まず対象が認識している「既知の課題」を知るということでもある。右表のような「キーマン課題ヒヤリング」シートを使って質問する。

 

9つの質問が並んでいるが最低限必要なのは「3.会社全体の現在のご方針」「4.担当部門の現在のご方針」「5.ご自分の問題・課題認識」の3つである。あとできれば「1.市場の機会と脅威の認識」「2.自社の強みと弱みの認識」も聞きたい。キーマンが認識している自社のSWOT(Strengths強み、Weaknesses弱み、Opportunities機会、Threats脅威)の認識だからだ。あとの質問は聞かなくてもいいし他の質問に替えてもよい。ちなみに「6.参考にしている他社」は比較するのに役立つため、「7.弊社の評価でくるところ」「8.弊社への要望・期待」はこちらの見られ方を確認するため、「9.印象に残っている最近の他の卸・メーカーの営業・販促」は競合の動向や先方が評価する営業・販促を知るため、に設置している。

 

実際は、質問項目だけを大きく記したものを出して聞いたほうが相手は答えやすい。

 

また、このとおりに聞くと、相手は、純粋想起した普段よく思っている課題を話す。しかしそれは必ずしもこちらが聞き出したい課題ではない。そこで、こちらが引き出したい課題認識をねらって、調査した資料を提示して課題ではないかと聞き、合意をとる。これを助成想起という。この純粋想起と助成想起の両方を組み合わせて聞くのが理想である。


たとえば、以下は、二俣事務所がこれまでの仕事の中で把握してきた市場の関与者の代表的な課題である

 

さらに、以下は、二俣事務所がキーマン課題ヒヤリングで把握した小売店(スーパー、総合スーパー、ディスカウントストア)の課題の測定結果である。需要創造、ロス撲滅が二大課題であり、店づくり、人づくり、コスト削減、CSV(環境・社会貢献、安全安心・健康)がそれにつづく大きな課題であることがわかる。

 

❷課題構造の提示

 

ここからは、そんな「未知の課題」を聞き出す方法を紹介していく。まずは「課題構造の提示」である。代表的なものとして下図のような「課題ツリー」がある。最初の課題ヒヤリングでは「利益確保」とか「客単価増」といった抽象的なコメントで留まったとしても、このような課題ツリーを見せて、「ということはこういうことでしょうか」と再提示することで具体的な課題やこちらがやりたい課題を合意することができる。

 

❸未知の課題の発見

 

キーマン課題ヒヤリングで「既知の課題」を聞き出しても、「利益確保」とか「客単価増」といった抽象的なものだったり、こちらにとって都合のよい課題が聞き出せなかったりする場合が多い。なので、こちらが具体的な課題を発見して提示することが大事だ。

 

第一に、財務や基本的な計数からの課題発見・提示がある。代表は、公開しているお客さま接点に限るが、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表から見つけ出すことだ。

 

たとえば、小売業で、売上高÷営業利益が6%未満なら本業で十分儲けていない、負債・資本合計÷売上高で2回転未満なら利益が出にくい体質、棚卸資産÷売上高で20回転未満なら在庫過剰、10%未満なら危険水域、ということになる。それを提示することで、なにをすべきか課題合意する。

 

第二に、販売実績からの課題発見がある。代表例をいくつか挙げる

 

自社の販売データみて、たとえば商品別に対象企業とその競合企業を見比べて明らかに販売量が劣るものがあれば、それはチャンスロスしている可能性があるということになる。

 

対象企業の販売データ(POSデータ)と、市場平均の販売データ(POSデータ)があれば、それらを比較すれば、いつ、何がチャンスロスしているかが明確になる。

 

なんらかの施策を対象企業で実施すれば、その販売実績が残せる。商品別や店別の販売金額、店別の店頭展開状態写真などである。高売上店と低売上店の店頭展開状態を比較するだけでも実績を上げるためには何が重要かがみえてくる。

 

対象企業の広告物、たとえば小売店であればチラシ、を分析しても課題が見つかる。商品の週別販売指数と、対象企業の週別のその商品の広告掲載状況を比較すれば、販促上の課題がわかる。カレンダーに商品別の広告物掲載状況を対象企業と競合を並べて整理して比較しても弱点が見えてくる。


 

第三に、店からの課題発見がある。

 

カテゴリ別に品揃え数を数え、対象企業と競合を比較すれば課題が見つかる。市場平均のPOSデータがあれば、市場平均のカテゴリ別品揃え数とも比較できる。

 

カテゴリ別に尺数やフェース数などのスペース構成を対象企業と競合を比較しても課題は見つかる。これも、市場平均のPOSデータをもっていれば、比較すればいい。また、カテゴリ別のスペースを売上高や粗利高の構成比と比較すれば売場生産性についての課題提示にもある。

 

店のお客さま観察という方法もある。対象企業のモデル店の対象カテゴリの売場の前に立ち、通者・立寄者・購入者の属性や、動線、購入商品、売場での商品選択の様子を記録していき、課題と思われる点をみつけるという方法もある。

 

第四に、VOS(voice of store:店の声)とVOC(voice of consumer:お客さまの声)からの課題発見がある。

 

VOSは店の担当者から対象カテゴリの売場づくりや販促についての問題点を聞き課題整理する。多くのお客さま接点の本部は店の声に耳を傾ける。

 

VOCはお客さま調査からの課題提示である。近年はweb調査が拡大している。いつも利用している店、店全体や対象カテゴリへの評価を聞けば、市場平均や競合店との比較からも課題が明示できる。前記したように、お客さまの認知経路、情報収集経路、購買経路も併せて測定すれば、お客さま接点が把握できていない購買に至るまでのプロセスも明らかにできる。

(2)10分調査、10名人脈

 

カテゴリの課題をみつけるには、大きなサプライヤーでは、会社が準備した販売データや商圏の特性を分析するプログラムを使う、もしくはそれを担当するスタッフに依頼して、すすめる。さらには、それらのプログラムや、対象とするお客さま接点のプロフィール、営業が登録した成功例が体系的に整理されたデータベース、目標管理のシート類など、営業の業務に必要な材料がすべて揃えられたSFA(Sales Force Automation:セールス・フォース・オートメーション)というシステムを使ってすすめていく。これらすべての営業支援ツールを総称して営業支援システムという。

 

しかし、これらの支援システムが十分に使われているのは、一部の企業に留まる。お客さま接点は自分たちにとっても重要なカテゴリの上位企業に販売データを提供して分析してもらう。なので下位企業はこれらの支援システムを使う機会も減り営業の関心も低下しがちになる。また、SFAになると、外部から入れたシステムの上でまわす場合が多く、自分たちの必要性に応じてピッタリに作られたものではないため、下位企業に限らず上位企業も率先して使わなくなってしまう。営業支援システム全体を比較的にうまく使っている企業をみると、それをつくる段階から自分たちで手作りで作ってきた経緯をもつているところのように思われる。

 

非価格の課題解決のための重要な手段である営業支援システムは、現場の営業の声に立ち戻り、作り直していく必要がある。でないときちんと機能しない。ましてや「AI」などは、営業にとっては、まだまだ遠い世界のように思えてきてしまう。

 

この営業支援システムが機能していない現状および、下位で営業支援システムをきちんと導入していない企業がまだまだ多い実態にたいし、「10分調査、10名人脈」を提案している。

 

営業支援システムが使えないから、無いから、という話で留まっているわけにはいかない。非価格の課題解決手段が無いから、人脈づくりと、会社力と、価格の課題解決で勝負しつづける、として利益低下の可能性が高い道を歩み続けるわけにはいかない。

 

営業の前にはお客さま接点があり、店があり、そこと日々交渉している仲間たちがいるではないか。その宝物を使わない手はない。そこから、自分の手で、さっと提案材料をみつけて、日々の交渉に使っていけばいいのだ。かんたんに、お客さま接点を10分で調べて課題をみつける、会社の内と外の仲間たち10名にネットで「教えて」と言って使える知恵と事例を入手する、という意味で「10分調査、10名人脈」と言っている。

 

以下に「10分調査」のいくつかの方法を紹介する。どれも、対象の店に行ったときや自分の席にいるときの10分以内で調査できる内容となっている。

(3)お客さま接点の課題と取組テーマ

 

お客さま接点の課題ごとにお役立ちの取組施策を準備できる。下表のとおり。赤字の取組テーマは次ページ以降で、青字「コスト削減」に関する取組テーマは次の項の「価格・コストの課題解決」で紹介する。

(4)需要創造

 

お客さま接点の課題で最大のものは、前記したように需要創造とロス撲滅である。すべての業種業態、企業に共通した大課題である。まず需要創造の取組テーマを紹介する。

(5)ロス撲滅

 

つぎにロス撲滅についておもな取組テーマを紹介する。

(6)人づくり

 

つぎに「人づくり」について紹介する。「需要創造」と「ロス撲滅」はカテゴリー課題への取組施策だが、この「人づくり」以降は経営課題への取組施策といえる。

(7)店づくり

 

「店づくり」とは、新店・改装、新業態開発、無店舗販売、新事業である。通常はサプライヤーには相談されない、まさに経営課題そのものだ。この課題に取り組むということは、経営のパートナーに近づくといってもいい。

(8)CSV

 

「CSV」とは、2011年マイケル・ポーターがハーバードビジネスレビュに掲載した論文「creating shared value:社会価値と経済価値の双方を追求することこそ次世代の資本主義の目指す姿」から始まった言葉で、環境貢献、社会貢献、安全安心、健康などがおもなテーマとなっている。それまであった同義のCSRは経済価値とは結びつけない考え方だったが、このCSVの登場により社会価値は経済価値と結び付けて取り組むものとなった。

 

いまや、全産業が経営方針の一部にこのCSV的な内容を掲げている。しかし、お客さま接点の調達窓口とサプライヤーの間の交渉で、取組テーマとしてあがることは稀である。売上・利益ノルマの下に生きている者たちにとってCSVはまだまだ経済価値にはつながりにくいテーマだからだろう。ただし、会社を預かるトップ層や環境社会政策担当部門にとっては、大きな課題であることは間違いない。

 

右にお客さま接点の実際のCSV課題を示した。実際の協働取組で一般的になってきているものを挙げてみよう。

 

・トレサビリティ(生産履歴表示)

・産地直送、工場直送

・地産地消、地産全消

・健康価値商材取組

・地域行政とのコラボ

・被災地支援

・省エネ

・3R(リデュース:減らす、リユース:再利用、リサイクル:再資源化)

・環境にやさしい商品の導入・展開

・環境保全活動参画(植樹など)

7.価格・コストの課題解決

(1)価格訴求型の重点販促エントリー

 

4つの営業のさいご「価格(コスト)の課題解決」に移る。まず、「価格訴求型の重点販促エントリー」から。

 

お客さま接点には集客のための価格訴求型の重点販促が必ずある。たとえば西友でいうと、EDLPの「プライスロック」「ズーッと安」、PB訴求の「みなさまのお墨付き」、月間特売の「チャレンジプライス」、バンドルセールの「よりどり●点●円」、という具合だ。

 

お客さま接点の価格訴求型の重点販促のおもなものは下図のようになる。サプライヤーは、育成したいブランドは、これらの施策から、対象企業がとくに重点にしている施策を見極めて、エントリーしていくことが重要である。

(2)条件、リベート、アローワンス

 

つぎに、お客さま接点とサプライヤーの間で取り交わされる販売契約「条件、リベート、アローワンス」がある。

 

「条件」とは納価抑制などの出荷条件のこと、「リベート」とは目標達成にともなう割戻金取り決めのこと、「アローワンス」とは施策ごとに設定される協賛金・フィーのことである。

 

これらは、お客さま接点にとっては利益確保の手段となり、サプライヤーにとっては販売目標達成の手段となるが、一方で、お客さま接点にとっては数値目標に縛られるため契約を結んだサプライヤーに偏った売場づくりになり、下位のサプライヤーにとってはいつまでたっても販売を拡大できない大きな障害になり、上位のサプライヤーにとっても売る工夫をしない契約依存の営業の充満につながる。また、これらの契約は、お客さま接点がたくさんのサプライヤーと契約するため、すべての目標の達成は、そのお客さま接点が大きく実績を伸ばさない限り、不可能になり、とくに下位のサプライヤーにとっては、契約そのものが無意味になる場合も多い。そして、最大の問題なのは、お客さま不在のお客さま接点になってしまうということだ。主権はお客さまにあるのに、お客さまがほしいものが必ずしも揃っていない、選ぶ範囲が限られてしまう。

(3)ロジスティクス改善

 

お客さま接点とサプライヤーがともに利益を得られる価格・コストの課題解決としてロジスティクス改善がある。

 

コスト改善を主題にして、輸配送、保管、包装、荷役、流通加工、情報処理の物流6機能についてのチェック、改善余地を発見し、コスト試算する。もちろん、営業個人でなく知見をもった者が集まったチームですすめなくてはならない。先行してローコストの物流を実現している企業の事実を調べて比較しながら改善してもいい(他組織・他部署の成功事例に学ぶ「ベンチマーク」という手法)。

(4)バリューチェーン・コーディネーター

 

価格・コストの課題解決の最後に「バリューチェーン・コーデイネーター」を紹介する。バリューチェーンとは、原材料調達・生産、商品開発、販売、といった個々の機能を強くし、連鎖させて、高い付加価値を形成するという考え方だ。似たもので「サプライチェーン」という言葉もあるが、サプライチェーンとは、原材料調達・生産から流通を経てお客さまに到達するまでのモノの全プロセスのことをいう。バリューチェーンは、モノのプロセスだけでなく、価値を高めるための機能の連鎖、を言っている。

 

「バリューチェーン・コーデイネーター」とは、そのバリューチェーンを組み立てる者をいう。いま、バリューチェーンの主導権は、生産側からお客さま接点側に移ってきているが、お客さま接点にはまだそれを組み立てる能力が不足している。なので、サプライヤーがそれをリードするかたちで手伝うということだ。もちろん、サプライヤー側は個人でなく知見をもった者が集まったチームで対応しなくてはならない。そして、バリューチェーン・コーデイネーターの力を発揮しなくてはならないテーマがお客さま接点の「オリジナル商品」くりである。再掲になるが、二俣事務所が調査してまとめた「お客さま接点起点のオリジナル商品を開発・育成する際の留意点」を以下に示しておく。


8.需要創造と効率(コスト・ロス削減)の両立

 

「非価格の課題解決」と「価格・コストの課題解決」を説明してきたが、お客さま接点の現実は「需要創造と効率(コスト・ロス削減)の両立」に向かっている。要因は大きく2つ。まず、長期的につづくと思われる人手不足の問題がある。人手不足に対応するためには、需要創造力を武器としていたスーパーや総合スーパーも効率に向かわざるをえない。つぎに、そんな環境のなか、効率を強みとして伸長している新しいお客さま接点、たとえばコンビニ、ドラツグストア、ディスカウントストアの存在がある。彼らは、効率を前提としながらも、そのうえで需要創造の新工夫を加えつづける。とくにスーパーや総合スーパーは、同業態間で競争している古き良き時代のポジショニングでは済まなくなり、各社がそれぞれの現在位置から、需要創造と効率の両立の方向に移動しはじめている。そのそれぞれの現在位置から変化方向への道のりの違いが企業ごとの課題の差としてあらわれている。それをよく理解することが大事だ。


9.PDC

(1)得意先戦略の4ステップ

 

考える営業の方法のもう一つの柱「PDC」にすすむ。前章「営業のマーケティング」で紹介した「得意先戦略」にあたる部分だ。

 

「PDCA」という考え方がある。「P:plan:計画する」「D:do:実行する」「C:check:検証する」「A:action:修正する」の略で、ビジネスの基本的サイクルとして、いまでもひろく使われている。古いフレームで、1940年代にウォルター・シューハート、エドワーズ・デミングがあらわしたものとされている。わたしは、このうちの「A」をとって「PDC」として使っている。PDCのC:検証は実際には次のP:計画と直結しており、PDCの繰り返しとしたほうがシンプルだからだ。

 

ここで取り扱う得意先戦略は最低でも1年計画にはなるので、1年の課題・目標達成度の振り返りと新しい戦略策定が必要になる。それはPDCのC:検証とは別格のものとなるため、PDCのうちのPを「R:research:リサーチする」と「P:plan:計画する」に分けて、「RPDC」としている。得意先戦略はRPDCの4ステップですすむということだ。

 

ちなみに「RPDC」という考え方は、水口健次が使っていたものであり、そのほか一部の製造業でも使っていた記憶がある。わたしの場合、PDCAにせよRPDCにせよ、呼称は「PDC」で統一し、すべての要素を含むものとして扱っている。

(2)ステップ1(research):課題の発見

 

ステップ1research)は課題の発見である。この「課題」とは、自社の課題はある程度わかっているので、おもに対象企業の課題を指している。内容は、「人脈と意思決定構造の理解」と「課題の発見・合意」になる。

 

「人脈と意思決定構造の理解」は、「人脈づくり」の項で紹介した「組織図深度バロメーター」と「意思決定フローの把握」の行動のことだ。対象企業の組織・キーマンをきちんと把握しておかないと、キーとなる課題をみつけることはできない。

 

「課題の発見・合意」は、「非価格の課題解決」の項で紹介した、キーマン課題ヒヤリングにはじまる「お客さま接点の課題の発見・合意フロー」の行動のことだ。

 

(3)ステップ2(plan):戦略の構築

 

ステップ2(plan)は戦略の構築である。内容は、「Winwin戦略」と「アクションプラン」になる。

 

 

 

「Winwin戦略」は右図のような「得意先戦略シート」1枚にまとめる。

 

❶左上に得意先の課題を、全体方針、キーマンの課題認識、SWOTというかたちで整理する。ステップ1「課題の発見」で実施したキーマン課題ヒヤリングで得られた情報をベースにこれまでの営業活動で把握できたことを加える。

 

❷右上に自社の課題を、強み・弱み、ありたい姿と現状のギャップというかたちで整理する。強み・弱みは商品別の実績と4つの営業視点での事実からまとめる。

 

❸そして、下に、ありたい姿に到達するためには何をする必要があるか(=取組課題)を、整理した「得意先の課題」と「自社の課題」をつなげるかたちで整理する。4つ以内に集約する。併せて、その取組課題に取り組むことで対象期間にどこまで到達したいかを定量・定性目標として整理する

 

 

「得意先の課題」は、ステップ1「課題の発見」がきちんとできていないと、薄く、不確かなものになる。

「自社の課題」は、とくに「ありたい姿と現状のギャップ」、つまり実績の評価の部分が、おうおうにして甘くなる。内部=自社・自分の行動に対しての評価はなく、外部の対象企業・競合にだけ要因をもとめて終わっている場合も多い。

 

実績の評価には、基本的な方法がある。以下のとおり。

 

もうひとつの「アクションプラン」は右表のようなシート1枚にまとめる。家は足場がないと建てられないように、目標は具体的な工程表=行動計画がないと達成はできない。

 

❶いちばん左に「得意先戦略シート」で設定した取組課題を入れ、その右にそのためのキーアクションを整理する。

❷その右に、1か月~四半期ごとに、ダイヤモンドフォーメーションに沿って(たとえば地区長・リーダー・担当・スタッフ)その時にどんな行動をするかを入れる。最低、3か月間以上は描く 

❸その期間が過ぎた時点で、立てた行動計画にたいして実績がどうだたっか、何を得られたかを整理し、それを検証(C)の作業としていく。

 

 

 

計画を描く際のポイントは次のとおり。

 

①取組課題ごとに描く

②自分ひとりではなくダイヤモンドフォーメーション個々の動きを描く

③P(課題をみつける、準備する、計画する)、D(プレゼンする、実行する)、C(検証する、報告する)のPDCサイクルを描く

④5W1Hレベル(いつ、誰が、どこで、何を、どのようにして)の具体性で描く

⑤「4つの営業」(人脈づくり、会社の力、非価格の課題解決、価格の課題解決)を組み合わせたものになる。

 

(4)ステップ3(do):戦略の展開

 

ステップ3(do)は戦略の展開である。内容は、「取組会議(戦略合意)」「店頭実現」になる。

 

 

 

「取組会議」とは、これまでの協働取組の戦略を検証し、これからの協働取組の戦略を合意する場である。「人脈づくり」の項の「意思決定フローの把握」で触れたように、3か月前のマスタープラン(お客さま接点の販売計画)をペースにした商談より、ずっと以前に合意されている取組もあり、まさにその合意の場でもある。

 

 

 

「取組会議」の構成は右図になる。サプライヤー側にとってのポイントは次のとおり。

 

❶winwinの合意の場 

❷じっくり話せる「来社商談」にする 

❸対象企業の調達部門マネジャ以上に参加してもらう(調達窓口で留めない)

❹サプライヤーは大きなダイヤモンド・フォーメーションでのぞむ

❺懇親会に流れる時間を選ぶ

❻取組企画は、

1)対象企業マネジャ以上に認めてもらうために前期実績を具体的に紹介する

2)対象企業の方針・課題認識をきちんと受けたお役立ち取組にする

3)取組に必要になるデータ提供を申請する

 

 

取組会議の「取組テーマ」は、再掲になるが以下の「サプライヤーのおもな取組施策」がそれにあたる。

 

もうひとつの「店頭実現」とは、「取組会議」で合意した施策や、適宜提案・合意した施策の店頭実現度を追求することである。前記したように、人手不足環境下、店頭実現はお客様接点とサプライヤーに共通する大課題になっている。

 

そもそもサプライヤーの商談目的が過去と現在では違う。過去は、本部と計画を合意する「本部商談営業」だったが、現在は、店で計画したあるべき姿の売場が実現するまで追う「店頭実現営業」に変わっている。具体的には右図のとおり。

 

店舗フォロー体制がきちんとある一部の製造業であればまだいいのだが、フォロー体制が小さい製造業や中間流通業は、本部との交渉で店頭実現を図っていかなくてはならない。たとえば展開指示書を誰がみてもわかるように具体的なものにしたり、調達窓口(バイヤー)だけでなく、店が参加する会議に出て説明したり、店舗運営部門とも施策について話したり、店のモチベーションが上がるように陳列や販売量を競うコンクール企画を盛り込んだり、そんな施策が必須のものになる。具体的には右図のとおり。

 

ゆえに、店舗フォロー体制が小さいサプライヤーのほうがフォロー体制が大きくてそこに依存してしまうサプライヤーよりも交渉スキルは豊富になるという側面もある。

 

(5)ステップ4(check):戦略の検証

 

内容は、「ギャップアプローチとポジティブアプローチ」と「経験を会社の力にする」になる。

 

「ギャップアプローチとポジティブアプローチ」は、立てた目標値や取組テーマ、アクションプランにたいして実績を評価することだ。サプライヤー内で毎月~四半期に一度、お客さま接点とサプライヤーが同席した場(=前出の取組会議の場)で半期に一度、のペースで実施する。評価の仕方は、立てた取組課題、目標、アクションプランにたいしての実績の評価である。さらに、評価するだけでなく次への行動計画を立てる。

 

次への行動計画を立てる際には下図の問題解決4タイプが参考になる。問題に対する理由が明確であればその改善をする。これを「ギャップ・アプローチ」という。多くがこれにあてはまる。理由がはっきりしないのであれば成功例を拡大させる。これを「ポジティブ・アプローチ」という。また、理由は明確だが営業内では解決できない場合は会社全体の機能を活用して解決する。これを「スペシャル・アプローチ」という。さらに、突発性の災害に対処しなくてはならない場合は、不測の事態に備えた原理原則的な動き方を決めてあるかどうかが重要になる。これを「スタンダード・アプローチ」という。

 

もうひとつの「経験を会社の力にする」は、取組によって生まれた成功事例を、「こうやったらうまくいく」というノウハウ=ベストプラクティスとして会社全体で共有するということだ。

 

まず、右図のようなベストプラクティスシートを導入し、年間で最低1件の登録を義務づける必要がある。

 

さらに、個人の経験を会社の組織能力にしていくためには、次の工夫が要る。

 

❶報酬が魅力的な優秀事例発表会の定期開催

❷営業支援システム内にDBを設置する。営業支援システムに類するものが何も無ければ新たにつくる。

❸営業支援システム内での閲覧数や「いいね」数のコンクール

❹成功事例登録数や閲覧数・「いいね」数の人事評価への接続

❺営業マネジメント(マネジャや営業スタッフのルーティン)における成功事例の登録促しと他の成功事例の紹介を義務にする